抵当権付きの賃貸物件に住むといずれ退去しなければいけない?

今回は抵当権付きの賃貸物件について書いてみようと思います。

皆さんがお部屋を借りる時、不動産屋から重要事項説明書という書類を渡されて説明を受けます。

契約前には必ず宅地建物取引士をもって、重要事項説明を実施する事が宅建業法により義務づけられています。

その時には「登記簿に記載された事項」についても説明がなされるのですが、この時に借主さんが疑問に感じることが多いのが「抵当権」の存在です。

抵当権が設定されている物件には、借主さんにとってデメリット等は生じるのでしょうか。

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賃貸の抵当権とは?

抵当権とは、例えば住宅ローン等でお金を借りたときに、万一その返済が滞った時に備えて、土地や建物を担保とする権利のことを言います。

例えば大家さんがその物件を購入する時には銀行等の金融機関からお金を借りる事になりますが、もしその住宅ローンの返済が滞ってしまったら銀行は困ってしまいます。

そのため銀行は担保としてその物件に抵当権を設定します。

 

大家さんのローン返済が滞ったら、銀行はその物件を競売にかけてその売却金を返済の一部に充てる訳ですね。

実際には競売で売却できる金額は相場よりも低くなる事も多く、もし返済額に満たない場合は大家さんは競売後もローン借金を返済していく事になります。

 

さて私たちが賃貸で家を借りる時にも抵当権が設定されている物件というのが多くあります。

借主さんが毎月支払う家賃の一部を、大家さんは銀行等への返済に充てていくことも多いです。

 

賃貸の抵当権と重要事項説明

先ほども書いたように、賃貸で契約をする際には不動産屋の宅地建物取引士の方から、重要事項説明があります。

配布される重要事項説明書には賃貸契約において大切な事がたくさん記載されていますが、その中に「登記簿に記載された事項」という項目があります。

 

この事項で、所有権に関する事項や、抵当権に関する事項の説明が記載されていますので、よくチェックしておく事が大切です。

もう少し細かく言うと、「甲区欄」に「所有権に係る権利に関する事項」が記載され、「乙区欄」に「所有権以外の権利に関する事項」が記載される事になっており、抵当権は乙区に記載される事になります。

 

もし抵当権が設定されていたら取引士からしっかりと説明を受けるようにしましょう。

特に賃貸では権利関係や住所の表示などが間違っていることが時々ありますので、後々にトラブルにならないように契約時に不明点をすべてクリアにしておく事が大切です。

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賃貸で抵当権が実行されたらどうなる?

それではこの抵当権が実行されてしまった場合には、借主さんはどうなってしまうのでしょうか。

「抵当権が実行される」というのは、例えば大家さんの借金の返済が滞ってしまい、銀行などの債権者によって抵当不動産が競売にかけられてしまう事を言います。

 

もし大家さんの返済が滞り、金融機関が物件を競売にかけ、その物件の新しい所有者から借り主が退去を求められた場合には、借主さんは退去しなければなりません。(6ヶ月の猶予期間あり)

退去を求められたら直ちに退去しなければならないとなると、借主さんは不足の損失を被ってしまう可能性もあるため、このような6ヵ月間の猶予期間が与えられています。

 

ですが競売後に新しい所有者から退去を求められた場合であっても、下記に示すように抵当権の設定された時期(タイミング)によっては、借主さんは退去しなくて良い場合があります。

 

 

賃貸建物の引き渡し「前」に既に抵当権が設定されていた場合

例えば借主さん(契約者)がその賃貸物件の契約をする時に、既に抵当権が設定されていたとします。

この場合には建物の引き渡し前にすでに抵当権が設定されていますので、もし抵当権が実行された場合には、借主さんは新所有者に対して賃借権を主張することはできません。

「賃借権を主張できない」とは、その後「入居をし続けることができない」という事です。

 

賃借権と抵当権どちらが優先されるかは、抵当権設定登記と賃貸建物引渡し(もしくは登記)の先後関係で決まります。

そのため借主さんが賃貸契約をした時に、すでに抵当権が設定されており、その後抵当権が実行された場合には借主さんはそのまま入居をし続けることが難しくなる可能性がありますので注意が必要です。

 

ただし抵当権が実行された場合であっても、新所有者が借主さんに「入居し続けていいよ」と承諾してくれた場合には、そのまま入居し続けることができます。

この場合には新所有者と借主との間で新たな賃貸借契約が締結されると考えると、その時に新たに初期費用(敷金・礼金等)の提供を求められる可能性がある事に注意が必要です。

 

賃貸建物の引き渡しの「後」に抵当権が設定された場合

それでは借主さんが建物の引き渡しを受けた後に(賃貸契約後に)、抵当権が設定され、その後に抵当権が実行された場合はどうでしょうか。

この場合には競売後に所有者が代わったとしても、借主さんは新所有者に対して賃借権を主張することができます。

つまりそのまま住み続けることができるという事です。

 

賃貸の契約においては権利関係まで深くチェックしない人も多いものですが、抵当権の有無を確認しておく事で後々にトラブルを回避できる場合もありますので、契約時にはしっかりと内容を確認しておくようにしましょう。

 

抵当権が実行された場合、預けていた敷金はどうなる?

それでは抵当権が実行された場合、借主さんが大家さんに預けていた敷金はどうなってしまうのでしょうか。

契約内容によっては、最初に家賃1~2か月分程度の敷金を預けていたはずです。

本来であれば敷金は退去時に返還されるはずのお金ですので、抵当権が実行された場合に敷金がどうなるのか気になる人も多いかと思います。

 

この点においても先ほどと同じく、抵当権が設定された時期・借主が建物の引き渡しを受けた時期によって結論が異なります。

①抵当権が実行された後、借主さんが新所有者に対して賃借権を対抗できる場合(そのまま入居し続ける事ができる場合)には、新所有者が旧所有者の地位を引き継ぐことになりますので、借主さんは新所有者に対して敷金の返還を求めることができます。

②逆に借主さんが賃借権を対抗できない(入居し続けることができない)場合には、新所有者に対して敷金の返還を求めることが出来ません。

 

そのため、②の場合においては、借主さんは旧所有者(今までの大家さん)に敷金の返還を求めることになります。

ですが旧所有者は競売を実行されるほどの状況ですので、当然に資力が乏しい状況が予想されます。

敷金返還の請求をしたからと言って、確実に返還してくれるとは限らないでしょう。

 

もし旧所有者が敷金を返還してくれない場合、借主さんとしては家賃と敷金の相殺も考えられます。

例えば敷金を2か月分預けているとしたら、競売が確定した後に大家さんに対して2か月分の家賃は支払わない旨を主張するという事です。

またそれも拒否されるようでしたら供託という手も考えられるでしょう。

 

いずれにしても敷金等の返還においても、借主さんが建物の引き渡しを受けた時期や、抵当権が設定された時期によって、返還の有無が変わってくる事がありますので注意が必要です。

 

抵当権付きの賃貸物件まとめ

賃貸物件と抵当権について挙げてみました。

実際に抵当権が付いている物件は多いですし、抵当権が設定されている物件を借りることは珍しい事ではありません。

物件を一括購入できる大家さんは少ないでしょうから、ローンを組む事になるのでむしろ抵当権付きの物件はとても多いです。

 

ですが上記で挙げたように、抵当権が設定されている賃貸物件を借りると、将来的に明け渡しを求められる可能性もゼロとは言えませんので、契約時には権利関係もきちんと確認しておく事が大切です。

また不動産業者としても、借主さんに対して十分な理解を得られるような説明が求められます。

特にこれからお部屋探しをする方は、最初の不動産業者選びは慎重にしておいた方が良いでしょう。

 

家を借りる時に不明な点があれば、納得がいくまでしっかりと説明を受けるようにしたいですね。

それでは今日はこの辺で。

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